ナポリを見たら、死ぬかもしれない
ナポリ史料調査滞在記
連載第①回目

みんなイタリアに旅行したらナポリに行け!
せり 2025.03.07
誰でも

「ナポリを見てから死ね」

この言葉は、ナポリの持つ美しさに魅入られたドイツの文豪ゲーテが残した格言として知られる。

要は、ゲーテ曰く「死ぬまでに一度ナポリを訪れなきゃ生きた甲斐がないよ」ということらしい。

イタリアに旅行する際には、ほとんどの人がローマやフィレンツェ、ヴェネツィア、ミラノといった中・北部の都市を訪れるだろう。逆にイタリアのつま先や足首に位置する都市、すなわちナポリとかシチリアのような南部に旅行客が足を運ぶ機会はあまりないかもしれない。

でも、ナポリが推しの文豪ゲーテさんにとっては、それはあまりにももったいないことであり、旅行の計画を急遽変更してまで訪れる価値がナポリにはあるらしい。

実際に、筆者のイタリア人の友人たちも、イタリアを旅行するならナポリがいいねと、みんな口をそろえて言う。

そもそも、これはよく言われる話だが、イタリアは北部と南部で大きな違いがあり、現地の人の性格や文化も北と南ではかなり異なる。「北の人は冷たくクールな感じで、南の人は気さくで人懐こい」。これはステレオタイプ的なフレーズかと思いきや、案外現実をそのまま言い表した表現らしいのだ。

加えて、ナポリは街並みの美しさや人柄に限らず、ごはんも格別美味しいという評判がある。

そう、ナポリはイタリアの中でもとりわけ完璧Perfettoな都市なのだ。

筆者は、ソドミー(反自然的な性愛)の裁判記録の調査でたまたまナポリに滞在する用事ができたので、本当にナポリが「見てから死ぬべき」都市に値するのかを、この目で確かめるチャンスを得たのである。

というわけで、史料調査のためにナポリを訪れる機会が今後も何度かあるので、不定期にナポリについて忌憚なき記事を書いていきたい。

ナポリで受けた洗礼

初めてナポリに着いた時、時刻は夜23時を過ぎていたと思う。

昼夜問わず、バイクの音が騒がしく鳴り響くナポリ中央駅の周辺には、明らかに治安の悪そうな空気が立ち込めており、駅前のバーbarにはアディダスぽいジャージを着た不良ぽい人たちが群がっている。その人たちの近くを通ると、何かニヤニヤしながら声をかけられるが、無視すれば特に何もしてこない。そのまま、予約していた駅近くのホテル・クラーレンに向かう。

その途中で、何やら警察官 3人が地面を見つめている。

ん?なんだ?と思い、警察官 たちの目線の先にあるものに、自分も視線を注ぐと、全身真っ黒のニンゲンが低いうめき声を上げながらうつ伏せになっている。

倒れているのはオールブラックコーデの黒人らしい。ほぼコナンの犯人である。

どう考えても物騒で危険だと判断し、足早にホテルに向かう。

できるだけ電灯の明るい所を歩いていたら、急に後ろから

「Scusa !へい!ちょっとごめんよ!」と呼び止められた。

警察だ。

***

そのまま「vieni こっちに来い!」と言われ、パトカーが停まっているところまで連行され、今度は筆者が 3人の警官に囲まれてしまったのである。

勘弁してくれよ、なんなんだよと思っていたら、一人の警官が不敵な笑みを浮かべて、

「hai il permesso di soggiorno? お前さん滞在許可証は持ってるかい?」と聞いてきた。

筆者は「やべえ」という日本語がつい口から出てしまった。

滞在許可証とは、イタリアに 3ヶ月以上滞在する人が、イタリアに入国したあと8日以内に移民局に申請しなければならない証明書である。イタリアに長期滞在している人で、もしこの滞在許可証がないことが発覚した人は、強制出国・罰金あるいは逮捕される。

筆者は、滞在許可証の手続きは済んでいたのだが、その肝心の証明書をピサの宿に置きっぱなしにしていたのである。そもそも滞在許可証があるかどうかなんて滅多に聞かれることではないのだが、ここに来てこんなこと聞かれるのかよと舌打ちを心の中でした。

そして筆者は警官に向かって、「いや僕は、あの、えっ証明書はたしかに持ってるんだけど、証明書自体は宿にあって今手元にないんですよね。あっいやっでも待ってくださいね証明書の交付を告知したメールならありますから、それ見せれば十分ですよね」と、若干パニック状態で変なイタリア語を早口で発した。

そしたら警官が「とりあえずパスポート出せ」というのでそのまま渡した。その間、警官がニヤニヤしながらいろんな質問をしてきた。警官が機械のようなものでパスポートをスキャンすると、「A posto なんだ、問題ないよ」と言われ、そのまま解放された。

その30秒後にホテルに到着。

だが、そのホテルでも気分が上がらない出来事が起きた。

トイレの水を流すと、なぜか一部の水が逆噴射されて便座の外に飛び散るのである。

もうおわってる。

シャワーは許せるレベルであったので、そのあとすぐもう入眠して切り替えようとして寝ようと目を閉じた。でも、おそらく寝てから数時間も経たないうちに何かの騒音で起こされた。

ホテルの目の前にある広場で、オッチャンが大熱唱しているのだ。警察はなんでこういう人を補導しないんだよ!と思いもながら、布団にくるまり、無理やり寝てそのまま再び寝た。

朝起きたら、オッチャンはまだ元気に歌い続けていた。。。

ここまで、読んでくれた人は、きっとナポリはどちらかとうと「見たら死ぬ」都市ではないかと感じた思う。少なくとも、ゲーテの言ったように、「見てから死ぬべき都市」ではないように思える。

だけど、上記のようなことは、ナポリの闇の部分だけを写し出した結果に過ぎない。

ナポリにも光の要素は存在する。

ナポリは「優しさと恐さが共存している都市」なのだと、少なくとも10日間滞在した筆者はそう感じた。

次回は、ナポリの光の部分について記述したい。現地の人がよく行く居酒屋とかレストランも、仲良くなったナポリの人から聞けたので、そのことについても触れたいと思う。

(もちろん新たに闇の部分を発見したら、それも書く。というか、まだ書き切れていない。)

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